2008.6.3(火)
中身よりも表層が大事、というのは現代の日本でよく見られる傾向のひとつだと思う。ほとんど同じ内容の商品が複数あった時に、商品の名前やパッケージのデザインで売れ行きが大きく異なった、というのはわりとよく聞く話である。あるいは、「あの人はイケメンである」、「あの子は美人だ」などの巷で交わされる会話も、外見を重視することによって発せられるものなのだと思う(これは今に限ったことではないのかもしれないけど)。
そのような傾向が良いのか悪いのか、僕にはよく分からない。しかし少なくとも、我々はそのような状況に置かれている、という認識をもつことは大切だと思う。
僕はわりと何かの名前を考えるのが好きで、例えば電車で目的地に向かう間などの手持ちぶさたな時間に、架空のバンドの名前や曲の題名などをあれこれと考えてしまうことがある。あまり実のある行為とは言えないが、僕自身があまり実のある人間とは言えないのだから仕方がない。思えば高校生の頃からそのような事をやっていたような気がする。その頃から既に実がなかったのである。しかし石の上にも3年、僕はそのような中から、良い名前の付け方についていくつかポイントを見つけたように思う。それらを以下にご紹介したい。
名前をつける際に重要なのは、次の3つであると考えられる:
1.意味
2.言葉の響き(語感)
3.字面
これは例を挙げて説明したほうが分かりやすいと思うので、世界的に成功したバンドである"The Beatles"を例に取って考えたい。ビートルズがあれほどの人気を得たのは、曲の良さ、メンバーのカリスマ性などの他に、バンド名の良さがあったからではないかと僕は考えている。
1.意味
当然のことだけど、名前には何らかの意味があるはずである。
よく知られているように、"Beatles"という言葉は、"beetle"と"beat"を組み合わせた造語である。名前を付ける場合、1つの名前で2つ以上の意味を持たせるのは定石と言っても良く、ビートルズもその定石を踏んでいる。
他のダブル・ミーニングのパターンとして、「他作品からの引用」というものがある。例えば「ローリング・ストーンズ」というバンド名は、マディ・ウォーターズの"Rollin' Stone"という曲に由来するものだという。つまり、「ローリング・ストーンズ」という名前には、文字通りの「転がる石」という意味に加えて、「マディ・ウォーターズとかに影響受けたっす」という意味が発生しているのである。
2.言葉の響き(語感)
口に出した時に心地よさを感じるかどうかも大切である。
「ビートルズ」という言葉は、一回聞いただけで覚えることができ、しかも何回言っても飽きない、と思う。作家の中村航さんの表現を借りれば、「キャッチーでスマッシュな名前」という感じだ。ビートルズから話は逸れるけど、「エビちゃん」というのも語感としてはかなり秀逸だと思う。エビちゃんがあれほどの人気を誇る(誇った)理由のひとつに、その名前の響きの良さがあると踏んでいるのだけど、どうだろう。
3.字面
文字に起こした時の、文字全体のデザイン性というのも大切である。
"Beatles"の場合、まず最初に大きく"B"という文字が来る。次の"e","a"の2文字は小さく控え目に位置し、バランスを取っている。その次の"t"では、前の"e","a"と比べてやや縦長になり、次に来る文字が"h","k","l"などの縦長な文字であることを予感させる。そして、その予感を裏切らない"l"の登場によって、見る者に予定調和な安心感を与える(ここが山場)。最後に"e","s"の小さめな2文字によって、全体にまとまりをもたらして大団円を迎える。
…というのが僕の"Beatles"という単語に対する印象なのだけど、分かっていただけるだろうか。大事なのは文字の大きさや長さのバランスである。例えばこれが"Beauaes"であったら(そんな単語ないけど)、全体のバランスは台無しだと思う。
以上見てきたように、名前はいくつかの条件を満たしてこそ、良いものになり得るのだと思う。もっとも、どんなに優れた名前を付けても、中身がなければどうしようもないのだけど。